模型部の部室が変わった。明るいことは以前から変わらないが、内装が大きく変化していた。 「・・・・・・なんか、ジークジオンって感じですね」 部室の模様替えが始まって三日目ぐらいに野中が言った言葉を正義は思い出していた。 渡辺美智子は模型部員三人が驚くほどの順応性を見せ、今ではみっちゃんの愛称で呼ばれるまでになじんでいた。馴染むにも限度があるよなあ、などと朝一番に部室入りした正義は一人ごちた。 渡辺が入部して二週間。部室の壁という壁だけでは足りず、天井に至るまでポスターで覆われてしまった。しかも同一人物、ジオン皇国総帥、ギレン・ザビのポスターである。部室の360度、どこを見ても彼と目が合うのは、絶えず叱責されている様で、最近、部室にきても以前ほど落ち着かなくなってきた。 渡辺美智子、みっちゃんはいい娘だ。礼儀正しく、きれい好き。頭もよくて、顔も可愛いが、身長は140pと驚くほど小さい。ただひとつの問題といえば、ギレンと聞くと見境が無くなるところぐらいだった。 ソファーに落ち着き、ホビージャパンのバックナンバーに手を伸ばした。人がいると精読できない、セクシーなアニメキャラのガレージキット紹介のページを開き、眺めていた。 チャイムの音がして、正義は壁の時計を見た。丁度二時限が終わったところだった。 「何見てるの? 」 いつの間にか、久美が部屋に入っていた。扉の音したかな、と、正義は驚いた。 「いや、ホビージャパンをね」 と、曖昧な答えを出した。久美も深く追求しなかった。 「ところでさあ」荷物をベンチに置き、「この部屋」久美が言った。 「俺も、言ったほうが良いかな、とは思うんだけどね、部長として」 久美は模型部員であるが、ガンダムに関しては全くの素人である。主要登場人物は、門前の小僧式にある程度理解している様だが、それ以外は全く話が通じない。 「好きなのは良いんだけどね、これはやりすぎでしょうが」 正義は自分がしかられているような気がして、少し恐縮した。「今度、会ったときに注意するよ」 「しっかりしなさいよ。新入部員って言ったって、アホに入ってこられたら私たちが困るんだからね」 部室の扉が開き、元気のいいこんにちはと供に噂のみっちゃんが入ってきた。その後ろから、野中が一抱えほどの包みを持って続く。 「高校時代、美術部だったときに作ったんです」 野中の持った包みを振り返って美智子が言う。野中は、それを部室中央のスチール事務机に置いた。 白いシーツ包みが解かれると、中から一分の一サイズのギレン胸像が現われた。 「にてるぅ! 」 石膏像の精巧さに、久美と正義の口から同じ言葉が飛び出した。 ところで、正義は今朝、大学近くのホームセンターに行っていた。それも、最近会得した変身能力のためである。 まず先に、いかにして正義が変身をコントロールできるようになったかを述べよう。 時は一週間ほど前にさかのぼる。 正義の実家から、食料その他の救援物資が送られてきた。 中身は米、缶詰、下着、靴下、石鹸、などなどの生活必需品が主だった。 荷物の中に封筒を見つけた。 指で封を破ると実家の匂いがした。便箋には、健康を気遣う母の文と、殴り書いたような父の文字で、たまには帰って来いとあった。 正義の顔は本人も気付かないうちに微笑みをつくっていた。 便箋の最後の行に妹、義子の文字を見つけた。 『兄貴の欲しがってた例のアレ 入れといたぞ』 正義がダンボールの中を探ると、奥のほうに埋もれる形で例のアレ、アブトロニックがでてきた。 「うおおお、やったぁぁぁ! 」 まさか知らない読者は居ないと思うが、老婆心から一応説明を加えておく。アブトロニックとは、アメリカで開発されたベルト状の健康器具である。ただいま本編主人公が塗っている専用のジェルローションを腹部に塗布してからベルトを巻く。そしてスイッチを押すと電気パルスが腹筋に直接刺激を与え、十分間でなんと600回もの腹筋運動をした事と同じだけの運動量が得られると言う優れものだ。 アブトロニックの箱には、異様に発達したボディビルダーの腹筋写真が、使用を続けるとこうなる、その一例として印刷されている。ベルトをややきつめに装着し、正義は説明書に目を通し、読んだ。 「この製品はベノレト状健康機械です。毎日継続レて使う事で効果が得うれます……? 」 仮名遣いがおかしい事にはすぐ気付いた。そして、漢字の中には一部簡体字も混ざっていた。 「様々なモドーがあいます。お好みのモドーでお使いくださり」 これって・・・・・・正義は思った。「パチもんじゃないのか? 」 一枚の紙片が、その時、説明書の間から落ちた。拾い上げると、その紙には『請求書・金7800円代金として頂きます・神谷義子』と書かれていた。 その紙は丸めて捨てた。説明書を見ながら、正義はベルトのパネル部分を操作した。一番強力なパルスが流れる『アイアンマンモドー』に設定した。 こんなんなるかなあ、箱を見ながら期待を抱きつつ、正義は電気が流れるのを待った。 後頭部が突然、何者かによって殴られた。正義はそう思った。そしてその犯人がただの床だと理解するまでに数秒、自分の身体が痙攣しているのだと気付くまでに、さらに数秒を要した。 身体が金縛りから解けた。電気は一定周期で流れるようになっている。正義は飛び起き、アブトロニックを外そうとした。 「こんなの、死ぬ! 」 再び電流が正義の身体を流れた。不幸な事に正義の部屋は角部屋で、しかも隣りは空き部屋だった。彼の叫びは、誰にも届かなかった。 三度目の衝撃のとき、正義の頭の中で何かが爆発した。 きつく締めていたベルトは、肉体の変化について行けず、マジックテープ部分から一瞬にして外れた。眼球が熱く思え、正義は何度も瞬きをした。 「死ぬかと思った」正義は無意識のうち、腹に手を当てた。 複数の段差を指先が感じた。正義はそこを見た。 アブトロニックの箱を見て、また腹を見た。箱の写真と自分の腹部が、ひどく似ていると正義は思った。そしてそれは気のせいではなかった。 「すげー」 腹筋だけではなく、身体全体がビルドアップしていた。完璧に別人の物になっていた。思い出すことがあり、正義はこの家で一番大きな鏡のあるところ、洗面所に向かった。 鏡を見たとき、見覚えのある顔がそこにあった。ただしそれは正義のものではなく、小学生のときに見た特撮ヒーロー、原子力戦士ガイガーマンの顔だった。 「今度は、これかよ」 それから数日で、正義は「変身」能力を我が物としていった。 主な能力とは、まず第一に姿が変わること。これは正義が「変身」前に思い描いた姿が強く反映されるらしかった。およそ思いつく限りのヒーローに「変身」してみた。だが、コピーされるのは姿だけで、ヒーローの持つ特殊能力までは使えなかった。 第二に、驚くべき膂力。タウンページは背のほうからちり紙のように破れ、フライパンはアルミホイルに等しくつぶれる。この二つを駄目にしてしまい、正義は後悔を覚えた。力にうぬぼれてはいけないのだ。 そして第三の能力で、正義の思う所では最大の特徴と言える能力が、「変身」しているときには、自分の触ったことがある物を、手元に呼び寄せる事ができる能力だ。 朝からホームセンターに行った正義は、主に工事現場で使う品物を中心に、じっくりと手にしてきた。もしものときはこれらの道具を「呼ぶ」つもりだった。 「変身」できるきっかけはよく分からなかったが、アブトロニックを使う事で「変身」できた。しかるべきポーズなりキーワードなりがあるのかもしれない。 そもそも何故自分に、このような能力が身についたのか。実は自分は、ナントカ星の王子で、今の両親は育ての親だった。自分でも知らないうちに、謎の組織に身体を改造されていた。その他、考えられる理由は色々あったが、それについては深く考えない事にした。 ともかく、「変身」出来るようになったことはすごい事だった。 「なんかさ、最近楽しそうだね。あんた」 「うん? ああ、ちょっとね」 いい匂いのする、インスタントではない、ドリッパーで淹れたコーヒーを野中が二人の前に置いた。「彼女でもできたんじゃないですか? 」 「そう見えるか、野中よ」 「そうよ。できるわけ無いじゃない、この男に」久美が言った。 「あのな、本人の前で・・・・・・」 奥のソファーに座っていた美智子が正義の言葉を遮った。 「えぇ! 神谷先輩、付き合ってる人いないんですか? 」 「あははー。まあね」 「意外です。神谷先輩みたいな人だったら、絶対付き合いたいですもん。わたし」 空気の変化を旧メンバー三人は感じた。 「あんたねー、めったな事言うもんじゃ無いよ。変に期待させるとつけあがるわよ、オタクは」 「久美先輩、それちょっと痛いです」と、野中。だが、久美がひと睨みすると黙った。 「うーん」正義は視線を手にした紙コップに落としている。 「でも、神谷さんは話すの上手いですよ。聞きたくも無いウンチクや自慢話、そっち系の人しますよね」 野中と久美は大きく頷いた。 「自分の話はするけど、ちゃんとその後で人の意見も聞きますよね」 「まあ、社会不適応者よね、それができない人」 「神谷先輩は社会不適応者じゃないって事すね」 「おい、話がでかくなってないか」 「久美先輩は、彼氏とか作らないんすか? 」野中が言う。 「ふふlふふふ、あんた度胸あるじゃない」再び久美が野中を睨む。 「いや、何でも、無いです」 「さて、オチもついたところでパフェでも喰いに行こうか」 「あ、あたし、ホットペッパーでいい店見つけました。大学近くです」 「じゃ、そこにいこうか」 正義は変身できるようになったのだが、だからといって毎週新しい怪人が登場して事件が起こる、なんて事は無かった。正直なところ、そうなったらどうしようと内心不安になっていたのだが、一月経つころには忘れていた。 四月、五月が過ぎ、六月が始まった。 待ち構えたように雨が降り出して、一週間降り続いた。二、三日、太陽の覗く日があり、また雨が降り始めた。 蒸し暑くなってきた部屋で、トランクスとTシャツだけになってカップ麺をすすっていると、いかにも貧乏大学生といった雰囲気がにじみ出ている。 部屋の隅には洗濯物が山になっている。他人が見たら正義を糾弾するかもしれないが、雨が降っているからこうなるのだと、当人は半ば開き直っていた。 一昨年の六月は使い残した四分の一キャベツが腐り、蛆虫が湧いた。去年は台所の湿ったふきんにシメジが根付いていた。今年はまだ何も起こっていないが、危険な箇所は両手で足りないほどある。正義はラーメンのスープを流しに捨て、容器もゴミ箱に投げ入れた。 布団に寝転がると時計を見た。午後七時だった。 寝たまま手を伸ばしてジェルローションを取り、腹に塗りつけた。アブトロニックを使うためだ。 いろいろと調べてみたが、「変身」するのは出力を最大にしたアイアンマンモードだけだという事が分かった。それ以外のモードでは変身しないので、正義は健康器具を安心して使うことが出来た。 ファットブラスターモードにセットすると、筋肉が心地よく規則的に引きつれた。何か飲もうと冷蔵庫を開けたが、飲料は栄養ドリンクしか入っていなかった。 小ビンを手に取ってみたものの、また戻した。「かえって喉が渇くんだよな」 正義は短パンをはくと、机の上から小銭入れを取り、開けた。五百円玉と一円玉が数枚入っていた。 近所の酒屋に自販機がある。そこに行ってコーラでも買おう。正義はアパートを後にした。 昼過ぎまで降っていた雨も今は止んでいた。濃紺の空が雲の合間に見え、正義は久しぶりに星を見た。蒸し暑かったが、そよ風があるので気持ち悪くは思わない。なかなかいい夜だった。 酒屋の自販機は何度も荒らしの被害にあっており、修理の後も生々しい。手書き文字の「夜間はつり銭抜いてます」の張り紙がある。見ると、つり銭切れのランプが点いている。 「五百円使えないじゃん」 とりあえず投入してみたが、つり銭受けに落ちてきた。舌打ちをしてみたが、どうなるでもない。他の所を探すしかなかった。「喉渇いてきたな」 原付バイクのエンジン音が聞こえた。一つ向こうの通りを走っているようだった。正義は自販機の前を離れ、通りに出た。明るさに眼をしかめ、手で光を遮ると、バイクが正義に向かって走ってくるのが見えた。 運転手が何事か怒鳴ったが、正義には聞こえなかった。運転手と目が合った。 原付は正義を避けようとして、横ざまに倒れた。バイクは正義と反対側に転がり、男が二人転がって行った。正義は避けた。二人とも、ヘルメットを被っていなかった。 「二人乗り? 」倒れている男に近付いていった。まさか死んではいないと思う一方で、脳みそとか見えたら嫌だな、そんなことが頭に浮かんだ。無意識のうちにつばを飲み込もうとして、喉が鳴った。目の前で事故が起こるなど、生まれて初めての事だった。 声を掛けるのにも、少々の勇気が必要だった。もう一度、今度は意識して喉を湿らせようとした。 男が突如起き上り拳を振るった。 正義は驚き、声をあげた。逃げやすい及び腰の体勢のため、攻撃は受けなかったが尻餅をついてしまった。そしてその体勢のまま「大丈夫? 」などと自分でも訳の分からない事を口にした。 もう一人の男も、いてぇー、と言いながら立ち上がった。立っていないのは、はねられなかった正義だけだ。 「おらぁ! 」先に立ち上がった男、運転手のほうが正義に飛びかかった。正義は尻餅体勢のまま、両手両足を使って、自分でも驚いてしまう速さで、後ろに逃げた。 街路灯の光で男の顔が見えた。正義の目に、それは悪鬼のものと映った。 「おい、ほっとけ、やばいって! 」後ろに乗っていた男が言った。その手には女物のハンドバッグがある。正義がその事に気付くのと、そう離れていない所からドロボウと叫ぶ声が聞こえてきたのはほとんど同時だった。 二人は倒れたバイクを起こし、またがった。運転手はスターターを蹴った。正義は、腹に手をやった。 スロットルを回してもバイクが進まない事を不信に思い、ひったくり犯人の運転手のほうは後ろを見た。後席に居るはずの相方は見えず、マスクを被った男が荷台を握っていた。 とっさの事だったので確かなイメージを浮かべる事が出来なかった。だが、正義の身体は変身していた。 「なんなんだ、お前は! 」運転手が見ると、昏倒して道路に横たわる相棒が居た。 正義の変身した姿は、彼の持つイメージが混合されて生まれたものになっていて、それは今までにテレビ放送されたどの変身ヒーローでもなかった。一方で、どの変身ヒーローの特徴をも受け継いでいた。 「えーっと」正義はうろたえた。「何て言ったら良いか、悪い事はやめろ」 「離せよ、糞が! 」 男が裏拳を見舞ったが、正義の手は難なく受け止めた。正義の目には、男の動きはごく遅く見えるのだ。捕った腕を引き、男を地面に引き倒した。 「俺は・・・・・・」その気になってきた正義は、ヒーローよろしく名乗ろうとした。「俺は」 「何なんだよ! 」 「えーっと、戦士、超戦士」 適当な名前が思いつかず、正義の思考は一時停止した。 「超戦士、キタキューダインだ」 自分でも何を言っているか、良く分からなかった。口をついて出た言葉は、自分の通う大学の名前をもじったものだった。 「ダイン・つるはし! 」正義の右手に、いつかホームセンターで手に取ったつるはしが呼ばれた。「はぁ! 」その武器を振るい、原付バイクを一撃の下に粉砕した。 そして次は、腰をぬかしている男に凶器を向けた。 岩を砕くつるはしは、ひったくり犯人の両足、広げられたその間に突き立てられた。男はつるはしを見、変身している正義を見た。男は自分でも気付かぬうちに失禁していた。 「悪い事は、駄目だ! 」正義の強い口調に、犯人はただ首を縦に振った。 心の奥から、感動と喜びが生まれてくる、大学の合格発表で自分の受験番号を見つけたとき以来のすばらしい感情を正義は感じていた。嬉しさのあまり、涙が出てきそうになっていた。 半分この世ではない世界に逝きかけていた正義だったが、恐ろしい悲鳴に、こちらに戻ってきた。 中年女性が驚き、立ちすくんでいた。「バケモノー! 」 「いや、あのですね」 弁明しなければ、正義は一歩前に、女性の方へと歩んだが、女性は一歩後ろに下がった。女性の悲鳴を聞いてか、先ほどからの騒ぎを聞きつけてか、人が集まり始めていた。女性の後ろから一人、二人と通りに姿を見せる。正義の後ろもそうだった。 自分にとって、非常に不利な状況に雰囲気が変わりつつあるのを正義は感じた。この状況判断能力は、変身能力とは関係ない物だ。 「とう! 」正義は飛んだ。そして隣りに立っていたビルの屋上に乗り、ビルからビルを伝って家とは反対方向に逃げた。 ある程度現場から離れた上で、変身を解いた。 翌日、正義は寝不足だった。興奮のあまり、眠る事が出来なかったためだ。一時限は出たくなかったが、この授業は去年も落としているので、今年は単位をとっておきたかった。 とはいえ、出席はしても居眠りすることは変わりない。適当な席に座り、十数分と講義を聴かないうちに正義は眠った。 授業が終わり、D教室から出た所で久美と会った。これはいつもの事だ。久美は隣りの教室で授業を受けている。そして二人とも、そのまま一階まで降り、掲示板を見に行く。習慣になっていた。 「ねえ、聞いた? 」エレベータを待つ、扉の前で久美が言った。 「・・・・・・何を? 」 「知らないの」扉が開く。乗り込む。「昨日、ひったくりがあったんだって」 「そんなの、しょっちゅうあってるじゃないか」 「違うの、なんか、変なマスク被った奴だって。友達が見たって言ってた」 「ふーん」 「なんか、バイクでおばさんのバッグとって逃げた後ね、二人はねて半殺しにしたんだって。で、今でも逃げてるって」 エレベータは一階に着いた 「物騒な奴だな」心拍の早まりを正義は覚えた。動揺を悟られまいとする心が正義に、噂って言うものはこんなもんだ、と語りかけ、何とか落ち着かせようとしていた。 「もしかしたら、四月の奴と一緒かもね。ほら、私、さらわれそうになったって言ったじゃない」 「ああ、うん」 二人は校舎の外に出た。正義は、まぶしさに目を眇めた。 休講掲示板の前には十人弱の人間が立っていた。授業が終わったばかりなので、サークル会館方面から来る人や、一号館から出てくる人達で、掲示板周辺は混み合い始めていた。 正義と久美は休講情報が無い事を確認すると、再び部室に行こうと歩いていった。 二人の反対側から歩いてくる人々の中に、一人長身の女性が居た。日本人でない事は明らかだったが、留学生だからといって別段珍しいわけでもなかった。久美の目に、その女性は特別な存在と映らなかった。 男達にとっては違った。長い足、細い腰、大きな胸、そして美形。その女はセックスアピール満点であり、非常に魅力的な存在だった。 正義にとっても同じだった。あまりじろじろ見るのも悪いと思ったが、これほどの逸材にはなかなかお目にかかれないものだ。女性と正義の目が合った。正義は目をそらせた。 このまま、正義達と女性はすれ違うはずだった。 女性は正義の前に立った。久美は気付かずに、三歩先に進んだ。 |